未来を照らす、薄くて軽い太陽電池(前編)|ペクセル・テクノロジーズ株式会社

はじめに
ペロブスカイト太陽電池――。
薄くて軽くて曲がるという特徴を生かし、次世代の太陽電池として大きな注目を集めています。国が策定する「第7次エネルギー基本計画」において、2040年の電源構成で再生可能エネルギーが主力電源になると位置づけ、その切り札としてペロブスカイト太陽電池の早期実装を目指すとしています。
そこで、ペロブスカイト太陽電池の生みの親であり、川崎市内で同研究開発の最前線に立つペクセル・テクノロジーズ株式会社(麻生区新百合ヶ丘)を経営する宮坂力氏(桐蔭横浜大学教授)に話を伺いました。
前編では、ペロブスカイト太陽電池の特徴とその仕組み、開発に挑む同社を紹介します。
薄くて軽くて曲がる!? ペロブスカイト太陽電池の特徴とは
ペロブスカイト太陽電池の最大の特徴は、「薄くて、軽くて、曲がる」という点です。従来のシリコン太陽電池は重くて硬く、設置場所が屋根などに限られていました。しかし、ペロブスカイト太陽電池は、まるでフィルムのように薄くて軽く、しかも柔軟性があるため、曲面にも貼り付けることができます。
この次世代の太陽電池は、桐蔭横浜大学で教壇に立ち、ペクセル・テクノロジーズ株式会社(以下、ペクセル・テクノロジーズ)の代表も兼任する宮坂力(つとむ)氏によって開発されました。宮坂氏は、「薄くて、軽くて、曲がるという特徴を生かせば、建物の壁面や窓、自動車のボディ、さらには服やカバンなど、従来では考えられなかった場所に設置できます。自分のカバンで発電してスマートフォンを充電できたり、車の屋根で発電して電気自動車を走らせたりなど、自分で創ったエネルギーを活用する『創エネ』を加速させることができます」と力説します。

光を電気に変える仕組み
では、ペロブスカイト太陽電池は、どのような仕組みで光を電気に変えているのでしょうか。この太陽電池は「ペロブスカイト構造」という特殊な結晶構造を発電に用います。フィルムに塗られたペロブスカイト構造を持つ層に光が当たると、光を吸収して、この層から電子が放出されます。この電子が電極に移動することで発電するのです。
当たった光を電力に変える変換効率は、従来のシリコン太陽電池が27%なのに対し、ペロブスカイト太陽電池は25%。最新の研究では、シリコン型の変換効率にも肩を並べるとも言われています。また、発電時の電圧が高いという特徴もあり、曇りの日や日陰、室内の照明といった弱い光量でも発電でき、従来のシリコン太陽電池が抱えていた「晴れていないと発電できない」という課題を克服しています。

ペクセル・テクノロジーズ
宮坂氏が代表を務めるペクセル・テクノロジーズは、2004年に桐蔭横浜大学発のベンチャー企業として設立されました。社名の「ペクセル(Peccell)」は、英語で「光電気化学セル」を意味する「Photo Electro Chemical CELL」から命名されています。
当初は大学内に拠点を置いていましたが、宮坂氏のペロブスカイト太陽電池の研究が世界的に認められ、川崎市麻生区の新百合ヶ丘駅前に拠点を移しました。現在は、主にペロブスカイト太陽電池の量産化に向けた研究開発や、ペロブスカイト太陽電池を活用した実証実験の技術指導に取り組んでいます。
(画像提供/ペクセル・テクノロジーズ株式会社)

新天地に新百合ヶ丘を選んだ理由について、同社総務部で広報を務める清田竜彦氏は、「新百合ヶ丘はアクセスが良好で、大学と会社の両拠点で開発を進める宮坂氏の移動の利便性が一番の理由でした。ですが、国内外から訪れる研究者や企業の人からも『都内からも来やすくなった』と好評です」と話します。
ペクセル・テクノロジーズは現在、ペロブスカイト太陽電池の量産化に向けて、製品の品質を安定させ、不良品を減らす「良品率の向上」、そして雨風にさらされる屋外でも10年以上使えるようにする「耐久性の向上」などの課題克服に向けて挑戦しています。特に、水に溶けやすい性質を持つペロブスカイト層をフィルム内に収める「封止」と呼ばれる工程が、耐久性を左右する重要なポイントです。宮坂氏は、「ペロブスカイト層を均一に塗布する技術や封止の技術は、日本が磨いてきた印刷技術の応用でこれからも発展していくと思います。課題は山積みですが、着実に前に進んでいます」と前を向きます。

「化学と物理、人との出会いが原点」
今や時代の寵児として注目を集める宮坂氏ですが、「2006年にペロブスカイト太陽電池を大学で発表した時は、変換効率が低く、注目を集めなかった」と振り返ります。
宮坂氏は学生時代、工学部で高分子化学を専攻する「化学屋」。大学院時代に物理化学の分野に転向し、色素増感太陽電池などの光電気化学の研究を深めてきました。ある時、宮坂氏の研究室にペロブスカイト太陽電池を研究したいという学生が入室します。学生と共に材料を一つ一つ検討し、発電効率が高まるよう、品質が安定するように研究を重ねてきました。
宮坂氏にスポットライトが当たったのは、2009年に発表した論文『Organometal Halide Perovskites as Visible-Light Sensitizers for Photovoltaic Cells』でした。
「変換効率が10%の大台に乗った時、この論文が世界的に注目されました。シリコン太陽電池はその製造方法に多くの熱量が必要になり、製造時のCO2排出の面でコストがかかります。しかしペロブスカイト太陽電池は、結晶構造を安定して作るのに難しさはあるものの、熱量はシリコンほど必要とせず、製造時のCO2排出量も抑えられます」(宮坂氏)。この論文は、アメリカの学術誌『米国化学会誌(JACS)』には当時の速報として掲載され、今や論文の引用数は数千を超えます。

「化学屋だった私が物理と出会い、そしてまだ世界の誰もが注目していなかった『光を吸収する』というペロブスカイトの特性を『発電』へと結びつけた学生の発想が、ペロブスカイト太陽電池の原点にあります」と宮坂氏。国内外で熱狂的な研究競争が進められていく中で、「川崎市周辺には、大手企業の下請けなどで技術を磨いてきた中小企業が多く集積しています。中小企業は意思決定のスピードが速く、柔軟な対応が可能です。ペクセル・テクノロジーズは、これらの企業と連携することで、新たな技術やアイデアを取り入れて、今後も研究開発を進めていきます」と話しています。
(後編に続く)