川崎の屋根が未来を灯す 川崎未来エナジーが描く脱炭素の姿

川崎市が51%を出資し、国内最大級の地域エネルギー会社として誕生した川崎未来エナジー株式会社(以下、川崎未来エナジー)。2024年4月の始動以来、ごみ焼却施設の電力を活用した公共施設への供給など、地産地消のモデルを次々と打ち出しています。2025年11月には家庭の太陽光発電で生まれた余剰電力を買い取るサービスも開始。井田淳社長が描く、地域で生まれた電気が地域内で循環する川崎の未来像を取材しました。
「ごみ」から生まれる光 川崎未来エナジーがつなぐ地域の輪
川崎未来エナジーは、川崎市や地元の金融機関、エネルギー企業など計8社が手を取り合い設立されました。同社が現在主に取り組んでいるのは、市内のごみ焼却施設(橘処理センター等)から生まれた再生可能エネルギーを、小中学校や公共施設等へ届ける「電気の地産地消」の仕組みづくりです。2026年1月時点で、供給地点は市立学校など約250施設にまで拡大しています。
井田社長は、「私たちは単なる小売電気事業者ではなく、自治体や企業、市民と連携する『脱炭素地域づくりパートナー』です。地域でつくった再生可能エネルギーを地域で使う、循環を目指しています」と、官民連携の意義を語ります。
環境教育にも力を注ぐ川崎未来エナジー。井田社長自らも学校へ出向き、手作りの紙芝居などで再生可能エネルギーを教えています。「この前は小学2年生に教えましたが、紙芝居で『ごみで電気を作っている、電気が地域で回っている』と伝えると、子どもたちは真剣なまなざしで話を聞き、気が付いたことを話してくれます」。この体験が、川崎の次世代に脱炭素の意識という確かな種をまいています。
(画像)川崎市「再生可能エネルギーの地産地消モデル」の概念図
※川崎市では、市内で生まれた再生可能エネルギーを地域エネルギー会社等が買取り、地域でつくったクリーンなエネルギーを市内に供給する新しいエネルギーの循環に取り組んでいます。
屋根を「ホーム発電所」に 市民目線へのこだわり
2025年11月に開始された「かわさきみらい太陽光買取プラン」は、一般家庭の屋根を「地産地消の電気を生み出す場所」として位置づける画期的な試みです。対象者は、再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が一定期間、一定価格で買い取ることを国が約束する「FIT(固定価格買取制度)」を適用したことがない(非FIT)、かつ、市内で10kWh未満の家庭用太陽光発電設備を新設する人です。川崎未来エナジーが、家庭の太陽光発電で余った電気を、1kWhあたり10.0円(税込)で買い取ります。
サービス提供の背景について井田社長は、「FIT期間終了後のいわゆる”卒FIT”には、多くの電力会社がさまざまなプランを提供しています。一方で、非FITへのサポートは手薄だった。ここに当社がサービスを提供する意義があると感じました」と言います。
この10.0円という金額は、業界水準と比べても高い価格に設定されています。さらに、このプランはホームページ上で手続きが完結するという契約時の煩わしさの解消に加え、契約者にJAセレサ川崎から市内産の旬の農産物をプレゼントしています(26年3月末までの申込者を予定)。「電気の地産地消は目に見えにくい。だからこそ、食という形あるもので地産地消・地域経済の循環の実感を持ってほしい」と井田社長は笑みを浮かべます。地元の恵みを通じて、市民が「自分の家の電気が街に役立っている」と誇りを持つきっかけをつくる市民目線にこだわっています。
究極のゴールは「会社がなくなること」 まちのエネルギー・ハブへ
川崎市は2025年4月から、大手ハウスメーカー等によって川崎市内で新たに建てられる住宅に対して太陽光発電設備の設置を義務付ける制度を導入しました。市はさらに太陽光発電設備の設置を後押しするため、「太陽光発電設備等設置費補助金(愛称:たいせつ補助金)」を設けています。市内に普及する太陽光発電設備から、余った電気を買い取る選択肢の一つを川崎未来エナジーが提供することで、太陽光発電設備設置のさらなる追い風となっています。
「かわさきみらい太陽光買取プラン」がスタートしてから1カ月、反応は「想定どおり」と井田社長。「非FITだけでなく、卒FITの方々にもメニューを整える必要性を感じました。また、余剰電力の買取と電力供給のセットプランも5年、10年ではなく、1年、2年のスパンでサービスを提供していきたい」と意欲をのぞかせます。
インタビューの締めくくりに、井田社長は意外な言葉を口にしました。「究極の目標は、2050年にこの会社がなくなることです」。2050年は、市が温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」達成が目標の年。この目標に対して「この会社がなくなる」とは、再生可能エネルギーの地産地消が当たり前になり、当社のような会社がなくても街が自立して動いている社会を意味しています。
ごみ焼却施設や各家庭の太陽光発電ーー。川崎のあちこちに点在する「発電所」がつながり、この地域で生まれた電気が循環する持続可能な未来を、川崎未来エナジーは描いています。